自治会・町内会情報
地域を見守るお地蔵さんのために地蔵堂を建立
山科区上花山町内会では、地域を見守ってこられたお地蔵さんを改めて大切に祀ることでコロナ禍の収束を図れないかと、令和2(2020)年、役員OBによる「サポート隊」が中心となり地蔵堂を新たに建立され、翌年には地蔵盆を再開されました。地域のため、子どものために活動を続ける「サポート隊」の皆さんにお話を伺いました。
抜群のチームワーク『サポート隊』
林さん:「長年野ざらしになっているお地蔵さんに、屋根でも作ってあげられないだろうか」という話が出たのは、令和2(2020)年11月の公園体操の帰り道の雑談からでした。私たちサポート隊が中心となって続けてきた月2回の公園体操は、公会堂前の広場で行っているので、コロナ禍で地域活動ができなくなった時も続けていました。
粟津さん:お地蔵さんは、公会堂の前に7体、その少し先に17体が祀られています。畑の畔から掘り起こされたものもありますし、大きさもバラバラですが、徐々にまとめられていったんでしょうね。私が子どもの頃は、お地蔵さんの周りを走り回って遊んだものです。今ではバチが当たりそうなことですが(笑)。
お地蔵さんに屋根を作りたい、という話は、以前から町内会でも出ていたのですが、なかなか実行に移せていなかったんです。昔から、疫病が流行ればお地蔵さんを祀っていたので、お地蔵さんのためになることをしたらコロナ禍も収束するのではないだろうか・・・と。やると決まれば動きの速いサポート隊なので、すぐにお寺の住職に相談し、寄付を募り始め、町内会にも相談しました。
児玉さん:町内会は、はじめはサポート隊のあまりの動きの速さに「すぐには決められない」という返事でしたが、話し合いのうえ、一部予算を捻出してもらえることになりました。結果、町内会から10万円、有志からの寄付34万円、合計約44万円が集まりました。大工さんにも破格の工費でご協力いただき、サポート隊メンバーも、工事中のお地蔵さんの移動、周辺の木の伐採や整地、前掛けの製作など、それぞれの得意分野を活かして協力し、発案から2か月後の令和2(2020)年12月20日には、立派な地蔵堂が完成しました。
長年の経験で町内会役員をサポート
粟津さん:ここまで協力し合えるのは、仲間意識が強いからだと思います。サポート隊は平成29(2017)年に町内会役員OBで結成したグループで、「老人のため、子どものため、地域のため」に活動しています。メンバーは、これまで長いこと役員を担ってきた地元農家の自営業者が中心で、地域のことをよくわかっています。例えば、毎年行われるお祭りでは、公会堂前で5升炊きの釜で3回、1斗5升のおにぎりを作って配ったり、これまでの地蔵盆でもテント張りから飲食の手配まで、あうんの呼吸で行ってきました。
林さん:公園体操は、サポート隊としての初めての活動で、平成29(2017)年9月に始めました。月2回、定期的に顔を合わせているので、そこで出たアイデアはすぐに実現しやすいですね。他にも、登校する子どもたちの見守りや、クリスマスのサンタクロース役など、メンバーそれぞれが地域で様々な活動を行っています。
地蔵堂を建立した翌年の地蔵盆も、サポート隊の後押しで復活しました。コロナも落ち着き、地蔵堂も新しくでき、ようやく地域の行事が再スタートできる、と思った矢先、町内会から「地蔵盆中止のお知らせ」が回覧されたんです。町内会では、子ども会が自然消滅し、役員の負担も大きいことから、行事の開催が年々難しくなっているようでした。そこで、公園体操の帰り道で、「子どもたちのために地蔵盆を開けないだろうか」という話になり、町内会に提案した結果、一緒に地蔵盆を開催することになりました。
児玉さん:毎朝、子どもの登校時間に旗振り当番をしているメンバーもいるので、町内会に入っていない世帯の子にも地蔵盆の呼びかけをしました。当日は子ども約50人が集まったかな。かき氷やフランクフルトを振る舞いました。参加された方々から約8万円のお供えが集まり、地蔵盆は多くの方が楽しみにされている行事だということを改めて実感しました。
粟津さん:私たちは長年の経験があり、ついつい地域を盛り上げようと熱く語ってしまうので、選挙で初めて町内会長をされる方は戸惑われるかもしれないですね。でも、お地蔵さんは地域を見守ってきた大切な存在。私たちはただ、地域のつながりを絶やしたくない、子どもたちに地蔵盆の楽しい思い出を作ってほしい…、という気持ちで動いたんです。若い人たちにも、「やっぱり上花山はいいところだな」、と思ってもらえるよう、これからも頼ってもらえる存在でありたいですね。
地域でのつながりを次の世代にも
児玉さん:サポート隊ができた背景には、町内会長の担い手がいない、という問題があります。もともと町内会には約200世帯が加入していたのですが、ここ10年で約半数が脱退するという危機的な状況になっているのが実情です。
粟津さん:この地域は昔から、農業を営む地元の人で、町内会や神社の役などを担ってきました。しかし、そのメンバーが高齢となった今も同じ人ばかりが役員に選出され、マンネリ化していたのも事実です。新しい若い人にも関わってほしい、という思いはありますが、平日の日中に仕事があるサラリーマンが多く、地域の会議や行事の準備の負担が大きいようです。若い世代とのギャップを受け止めた上で、みんなで地域のつながりを受け継いでいくにはどうしたらいいかを、毎年考えています。
林さん:町内会の3役は、70歳を過ぎると辞退できる、5年間役を免除できるなど、担いやすくするためのルールを少しずつ増やしてきたのですが、やはり、何も知らない人が町内会長になると大変だと思います。選挙で初めて町内会長に選ばれた方が辞退されたこともありました。その時に、過去5年間の役員OBで話し合い、サポート隊を結成することになったのです。初めて町内会役員になった方の負担を減らすため、長年の経験を活かして様々な活動を支えよう、と、町内会とは別の組織として立ち上げました。規則もなく、メンバーも固定していない、ゆるい団体で、できることを楽しく、出しゃばらないように、をモットーに活動していきたいと思っています。そのためには、町内会とサポート隊で話し合いを重ねながら、新しいやり方を一緒に考えて行くことも大切ですよね。
【山科区、加入約100世帯】
取材:令和6(2024)年7月10日
- 取材後記
地元農家を中心とした強い結束力で地域活動を支えて来られ、このつながりが次世代へ受け継がれることがサポート隊の願い。働き方や暮らし方が変わっていく中でも、将来お地蔵さんの目には、世代を超えて支え合う地域の未来が映るよう、試行錯誤で取り組まれていました。
『町内会サミット』を開催し、他の町内会と情報交換
中京区松原町西南部町内会は、時代に合った町内会運営に見直すために女性が会長を引き受け、他の町内会と一緒に困りごとを話し合う『町内会サミット』を開催されました。令和5(2023)年度町内会長の大関さんと役員の向井さんにお話を伺いました。
きっかけは、翌年度役員が決まらない
大関さん:町内会長になったきっかけは、町内会の運営方法を見直さないと誰も役員ができなくなる、という危機感でした。私も会長を長く続けるつもりはないので、誰でも担いやすい形に変革することを条件に、町内会長を引き受けたんです。とにかく役員の仕事が大変なのは、夫が町内会長だった前年度に実感していました。2人で協力しても、仕事や子育てに大きくしわ寄せが来るほど時間を割かれていました。さらに、翌年度役員を決めるため、対象となる世帯へ役員が1軒1軒お願いに行ったものの立て続けに9軒に断られ、何のために町内会をやっているのかわからなくなり、「町内会なんてなくても良いんじゃないか」とまで話し合われました。
困り果てた前年度役員は、なんとか翌年度に引き継ぎたい一心で、どうしたら良いか町内の皆さんに意見を聞いて決めることにしました。町内会の運営についての匿名アンケートの回答をもとに3月に行われた意見交換会。「町内会は必要だと思うが役ができない」という声が多い中、ある方の「町内に知り合いがいなくなるのは生きにくい」という発言をきっかけに、はっと冷静になりました。確かに町内会活動は大変だけど、関わりができることであいさつし合える関係になった人もいる…。その後、町内会の意義を再確認し合う雰囲気が広がり「住んでいる町について知れて嬉しい」「お互い助け合いの気持ちで役も受け止めていきたい」という、前向きな発言も増えていきました。想像していた以上に町内の方と本音で話し合うことができ、町内会の意味も見いだせそうな気がしたので、「ここまで課題を洗い出しておいて、知らないふりをして次の人に会長を回すことはできない」と考え、私が夫から引き継いで町内会長を担うことにしたんです。
すると、一度断られた方も役を引き受けてくださることになり、選挙で決まった副会長と会計、それから前年度の3役も一緒に、6人体制で運営方法を見直していくことになりました。実は、これまで「女性は会長になれない」という慣習があったのですが、令和5(2023)年度役員6人のうち5人が女性となったことも、大改革の1つでした。
向井さん:2年前、私の夫が町内会長だった年はちょうどコロナ禍で活動が少なかったのですが、やはり実務は妻である私が担っていました。このやり方に疑問を持ちつつ、そのまま引き継いでしまったことが心残りだったので、大関さんたちの改革に協力することにしました。
他のまちのことを知ると、自分たちのまちのことに気付ける
向井さん:改革が始まった令和5(2023)年の8月、偶然ゼスト御池で開催されていた地蔵盆体験会に行ったときに、自治会や町内会を運営する時の悩み事について工夫事例を紹介している『京都の自治会・町内会 困ったときのヒント集』を見つけました。「困っているのは私たちだけじゃないんだ」と、とても勇気づけられると同時に、様々な事例を知ることで自分たちの地域のことを客観的に捉えることができました。
大関さん:他の町内会の話をもっと聞いてみたいと思ったので、令和5(2023)年12月に『町内会サミット2023』を企画しました。町内会の改革事例や行政の支援策などを学んだ後、参加者同士で意見交換を行ったのですが、「引っ越してきて町内会があったので、地蔵盆のことがわかった」、「昔は商売人が地域を支えてきたけど、これからは難しい」、「マンションは子どもが多いけど、あいさつできる機会が少ない」といったそれぞれの地域の話を聞き合うことで、改めて自分の町内会の特徴も知ることができました。また、自分たちのやり方が時代に合っていないことにも気付かせてもらい、改革の後押しになりましたし、町内での説明の説得力になりました。
向井さん:結局、自分たちの地域のことは自分たちで考えないといけないんですね。「町内会って誰のためにあるの?」と意義を見失いそうになりましたが、町内会がなくなって地域のつながりが薄くなると、ご近所での安心感がなくなり、最終的に困るのは自分たち。他の地域の事例を参考にしながら、時代に合ったコミュニティづくりを考えることが大事なんだと気付きました。
時代と実態に合った町内会活動へ
大関さん:1年間で改革したことはいろいろあります。まず、町内の回覧物は、LINEオープンチャットでも共有するようにしました。また、これまで会長、副会長、会計の3役は選挙で決め、任期満了後10年間を免除としていましたが、毎年輪番で決まる5人の班長の中から選ぶことにしました。同時に、各班は世帯数にばらつきがないよう再編し、公平に班長を選出できるようにしました。最も負担となっていた3役の仕事は、細分化して一覧表にまとめたうえで、各委員で分担するなど整理しました。例えば、町内会長は自主防災委員を兼ねていましたが、責任が大きすぎるため、別途防災部長と副部長を設け2人体制にしました。また、行事の負担が大きい神社係も町内会長が兼ねていましたが、お祭りに関わりのある方が「その役ならやっても良いですよ」と言ってくださったのでお願いしました。他にも、会計の仕事の1つだったお地蔵さんのお花係は、年配の女性が「それなら私が」と申し出てくださいました。これらは、『町内会サミット』で知った「ちょこサポ」(※)の仕組みを参考に、役員以外の方のお手伝いを募集した結果でもあり、「やらされる」ではなく「私はこれができる」の感覚で些細なことでも担い合える関係が少しずつできていると思います。
向井さん:もし改革に取り組んでいなかったらどうなっただろう、と考えると、もっと町内がギスギスしていたんじゃないかと思います。町内会の意義を見失いそうにもなりましたが、その時に、自分たちで率直な意見を出し合い、大関さんを中心に改革に取り組む姿を間近で見て、感謝の気持ちと同時に「町内で助け合おう」という雰囲気が徐々にできてきたのだと思います。中には「それでも役を担うのは難しい」という声もありますが、これから高齢世帯もどんどん増えていく中で他人ごとではありません。お互い気持ちよい関係で暮らし続けられるよう、押し付け合うのではなく、身近なことで協力し合える町内会でありたいと思います。
(※)自治会活動ちょこっとサポート隊『ちょこサポ』 | 自治会・町内会 NPOおうえんポータルサイト (kyoto.lg.jp)
【中京区、加入約60世帯】
取材:令和6(2024)年5月28日
- 取材後記
「町内会って必要なの?」という究極の問題に向き合われたからこそ、様々な町内会の事例から学びながら自分たちの町内会の意義を見出し、存続するための改革に取り組まれた事例。変えることそのものにも多大な労力がかかる中、その後押しとなったのは、外部からの客観的な意見と、町内での日常的なつながりであった。
自治会活動ちょこっとサポート隊『ちょこサポ』
伏見区の淀下津町連合自治会は、令和5(2023)年4月、できることで気軽に自治会活動をサポートする「自治会活動ちょこっとサポート隊(通称『ちょこサポ』)」を設立し、行事のお手伝いなどで役員の負担を軽くしたり、住民同士が交流できる楽しい活動を生み出したりされています。令和5年度町内会役員と『ちょこサポ』の皆さんにお話を伺いました。
きっかけは、住民同士で交流する楽しさ
中村さん(『ちょこサポ』代表):私は、平成20(2008)年に今の地域に引っ越してきてから、運動会に出場したり、地域の行事に参加したりして、徐々に地域の皆さんと仲良くさせてもらってきました。そして、8年後に副会長、翌年に会長をさせてもらった時には、新しいことにも取り組ませてもらいました。例えば、副会長の時には、当番の組の組長だけで行っていた公園清掃を、当番の組の全世帯と有志にも呼び掛けることにしました。今では、会長OBや有志の方々も手伝ってくれるようになり、公園清掃が交流の場になっています。また、会長の時には、淀や久御山町で栽培されている「淀大根」を使い、幅広い世代が参加できる『大根炊き大会』を企画しました。料理上手な女性会の皆さんに調理を担ってもらい、お年寄りにも子どもにも大盛況のイベントになりました。
しかし、その後のコロナ禍で、地蔵盆や子ども神輿などすべての自治会活動がストップしてしまいます。私はその時、役員ではなかったのですが、「コロナ禍でも何か楽しい取組ができないだろうか」と考え、知人と『サンタクロースがやってきた』を企画しました。これは、サンタクロースとトナカイに扮した私たちが、子どものいる家庭にプレゼントを渡しに行く、というものです。子どもたちがとても喜んでくれたのですが、それ以上に、訪問した私たちの方が子どもたちの純粋なリアクションに癒され、元気をもらいました。
役員じゃなくても、何かやりたい人がいる
中村さん:こういった経緯があり、「もっと自治会活動に関わりたい」と考えるようになりました。役を負担に感じている人がいる反面、何かしたいけど役員じゃないからできない人がいる、というミスマッチをなくしたかったんです。
橋本さん(『ちょこサポ』メンバー):私は、中村さんの翌年に会長になりました。中村さんが仲間たちと企画した『サンタクロースがやってきた』が大変好評だったので、自治会にはこういう人たちの力が必要だと思いました。淀下津町連合自治会は5つの町の連合体です。各町2名いる役員は、2年任期ですが1年に1名ずつ選出され、1年目は副会長、翌年に会長を担いながら交替しています。連合自治会は、5つの町から各2名の合計10名の役員と、各種団体を担当する約18名の運営委員で構成されています。中には、地蔵盆や縁日、子ども神輿などの行事の運営を負担に感じている役員もいらっしゃるようで、もっと若い人に関わってほしいという声もあります。
中村さん:しかし、役員でなければ会議に出席する機会がなく、私も関わり方がわかりませんでした。そこで、子どもなどを通してつながりのあった有志5名で話し合い、毎年交替していく役員をサポートするグループを立ち上げられないかと考えました。地域コミュニティサポートセンターにも何度か相談させていただき、地域の皆さんの賛同をいただきやすい資料を作るなど準備を進め、令和4(2022)年9月の連合自治会役員会で提案してみたんです。
山田さん(令和5(2023)年度役員):私は、令和4(2022)年度から役員をしており、役員会で中村さんが提案されたことをよく覚えています。自治会の課題と解決策をわかりやすい資料で説明されたので、役員同士が納得して「これでいこう」と意見がまとまりました。総会でも承認され、令和5(2023)年度から運営委員の1つに『ちょこサポ』が加わることになりました。
『ちょこサポ』スタート、コロナ後の自治会活動も再開
中村さん:自治会の皆さんに受け入れてもらえ、堂々と活動できるようになって嬉しかったですね。早速4月に、メンバー募集のチラシを回覧したところ、ここにいる橋本さんを含め2名の応募があり、元々のメンバーと合わせて7名で活動をスタートさせました。
笹木さん(令和5(2023)年度役員):私も令和4(2022)年度から役員をしており、コロナ禍で行事ができない中でもクリスマス行事をしてくれていた中村さんたちを見ていたので、大いなる期待をもって『ちょこサポ』を承認しました。でも、コロナ禍でこれまでの自治会活動がストップしていたので、役員も初めてのことが多く、最初は何をどこまで頼んだら良いのかわかりませんでした。中村さんから「なんでも言ってほしい」と声をかけてもらったので徐々に相談するようになり、結局、4年ぶりに再開する行事のほとんどで『ちょこサポ』にお手伝いしていただきました。他にも、チラシの作成や印刷など、自分たちが苦手なことも率先して担ってもらえたので大変助かりました。今年は私もサンタクロースに扮して子どもたちにプレゼントを渡せたので、とても楽しい思い出になりました。
中村さん:今年の役員の皆さんが、「やるなら楽しんでやろう」というスタンスの方々だったので、一緒に活動を盛り上げることができました。基本的に、自治会活動は役員の皆さんが主体なので、『ちょこサポ』はできる人ができる範囲でそのサポートをしていくスタンスですが、今年は新しいゲームコーナーの企画運営なども引き受けました。また、行事に参加できなかった方にも当日の楽しい雰囲気が伝わるよう、写真を使った報告チラシを作成して回覧させてもらいました。楽しそうな雰囲気を伝えることで行事に参加しようと思う人をもっと増やしたいですね。役員の皆さんの負担を軽くするため、今ある活動を見直していくことも必要ですが、楽しい様子を伝えることで「やってみたい」と思う人を増やしていくことも、最終的には負担軽減につながるのではないかと思います。今後は、会長や副会長などの役員経験者や、未経験でも自治会活動に興味がある人に、メンバーに加わってほしいですね。
山田さん:今年度は、4年ぶりに行事が再開して大変でしたが、『ちょこサポ』メンバーのおかげもあって道筋をたてられました。翌年度役員の皆さんも続けていこう、と思ってもらえたら嬉しいです。
橋本さん:役を担うことは、必ず負担が増えること。だからこそ、楽しい、とか、やりがい、と思えるかどうかが大切だと思います。始めは役員をやりたくないと思っていても、やってみるとそれなりに良いことがあるので、ぜひ一度、自治会の活動に関わってみてほしいですね。
【伏見区、加入約370世帯】
取材:令和6(2024)年3月13日
- 取材後記
やりたいことだけをやったり、互いに仕事を押し付け合うのではなく、地域がもっと良くなるため、誰でも参加しやすくなるために、まずは自分たちが楽しいと思う活動を自ら実行されていました。「地域から受け取ってきた優しさや温かさを、今度は与える側になりたい」という言葉が印象的でした。
学生の関わりがきっかけとなり、地蔵盆を復活
上京区の奈良物町は、堀川団地の住民や商店で構成される町内会です。子どもが少なく、コロナ禍もあって一度休止となった地蔵盆を、学生が協力することで令和5(2023)年度に復活されました。地蔵盆の振り返り会にお邪魔し、学生グループ「edunka(エデュンカ)」の皆さんと団地の方々のお話を伺いました。
きっかけは、学生の「地蔵盆を手伝ってみたい」
牧さん(edunka):私たち「edunka(エデュンカ)」は、「興味関心の種を撒く」というテーマで大学生のやってみたいを実践するグループとして、令和5(2023)年5月に同志社大学社会学部教育文化学科の5名で立ち上げた学生団体です。活動を始めるにあたり、まずは「自分たちのやってみたい」を実行してみようと、メンバーの一人が子ども時代に経験した「地蔵盆」について関心を持ち、6月にゼスト御池で行われた『京の地蔵盆・夏祭り相談会』※1に行って情報を集めました。そこで、「京都市のまちづくりアドバイザーに相談したらいいよ」というアドバイスをもらい、上京区役所に出向いたのが始まりです。
上京区役所の京都市まちづくりアドバイザー亀村さんから、「『上京朝カフェ』※2でみなさんの思いを伝えたら、地蔵盆に関わっている人と出会えるかもしれないよ」とアドバイスがあり、早速参加したところ、いくつかの町内会の方とお話しすることができ、そのうち2つの町内会で地蔵盆をお手伝いできることになりました。
(『上京朝カフェ』の様子)
(※1)町内会長や担当者さんの地蔵盆や夏祭り開催・準備等のお悩みをプロの業者や学生が伺い、解決につなげていく相談会。
主催:「京の地蔵盆・夏祭り開催の請負人」実行委員会、共催:京都市・ゼスト御池地下街。
(※2)上京区民の有志で毎月行っている交流の場。「まち」や「つながること」に関心のある人なら誰でも参加できる。
団地住民同士が交流するために、地蔵盆ができたらいいな
横田さん(団地住民):私は、団地に住んで6年目で、小学生以下の子どもが3人います。団地には、長年住まれているおばあちゃんやものづくりをされている方など、様々な方が住んでおられますが、あいさつをし合ったり、外で遊ぶ子どもたちを見守ってくれたりして、とても安心感があります。ただ、空き室が出ると新しい方が入ってきて住民が入れ替わるので、もっと団地の人同士で交流ができるように、地蔵盆を復活できないかな、と思ったんです。数年前までは地蔵盆をされていたと聞いたのですが、わからないことが多く、なかなか具体的に動くことが出来なかったところ、商店街でギャラリーを運営されているNPO法人ANEWAL Gallery(アニュアルギャラリー)の方と知り合うことができ、地蔵盆を手伝いたいという学生さんがいるからできるかもしれない、と聞きました。
飯高さん(NPO法人):私は、団地を管理している京都府住宅供給公社の委託で『NO.317 ANEWAL Gallery』を運営しています。私も、edunkaさんが参加された『上京朝カフェ』に参加していて、学生さんたちのお話を聞くとすぐに、地蔵盆をやりたいという横田さんたちのことを思い浮かべました。でも、学生の皆さんがどのくらい地域のことを理解して協力してくれるかわからなかったので、まずは、団地にお住いの方や商店街のお店の方にお話を聞いてみたら、と伝えたんです。私たちのように地域の文化や芸術の振興を目的としたNPOだからこそ、地域の方同士、また、地域の方と学生の皆さんをつなぐ役割ができると思いました。そして、地蔵盆を開催することがゴールではなく、これからのつながりづくりのきっかけになるといいな、と思いました。
住民と商店街とのつながりも
森本さん(edunka):様々な立場の方のお話を伺うと、団地にお住いの方々と商店街の方々とのつながりが意外と少ないことがわかりました。また、団地に新しく越して来られた方は、子どもたちのためにもぜひ地蔵盆をやりたい、と話されていて、私たちは子どもと遊ぶことが得意なので、ぜひ協力させてもらいたいと思いました。
横田さん:学生の皆さんの関わりが決まり、会場は『NO.317 ANEWAL Gallery』を使わせてもらえることになり、地蔵盆復活に向けて、アニュアルギャラリーやedunkaのみなさんと何度も打ち合わせを重ねました。昔の備品を探したり、祭壇の飾り方を調べたり、と、手探りでしたね。団地にお住いの皆さんへは私が呼びかけて、お供えなどの物品調達は商店街理事長で団地にお住いでもある乾さんにお願いして。町内会未加入者にもお知らせするための回覧板づくりは飯高さん、地蔵盆当日のプログラムづくりはedunkaの皆さん、と、うまく役割分担ができたと思います。今回は、これからも地蔵盆を続けることを考え、提灯を新しく購入させてもらいました。
矢野さん(edunka):地域の方々のお話を伺いながら一緒に準備を進めたので、皆さんの思いに精一杯応えたい、という気持ちでした。当日は午前中からお地蔵さんの飾りつけや子どもたちのゲームの準備をして、14時からの地蔵盆には大人約10名と子ども7名、それから私たちや関係者も含めると全部で約30名が参加しました。伝統的な数珠回しやふごおろしも、自分たちで調べてやってみました。
由利さん(edunka)私たちが特に力を入れたのが紙芝居です。子どもたちに地蔵盆のことを少しでも知ってもらおうと、ストーリーを考えて手書きで仕上げ、セリフや効果音もつけて練習をしました。小さい子も最後まで静かに見てくれて嬉しかったです。力作なのでyoutube※3にもアップしました。
(地蔵盆の様子)
脇坂さん(団地住民):子どもたちは、大学生のお兄さんやお姉さんとすぐに打ち解けていましたし、大学生の皆さんも一緒に熱中して遊んでくれたので、賑やかな地蔵盆になりました。終わった後は子どもたちも一緒に片付けをしていましたね。来年もしたい、という声もあり、この地蔵盆を次にどうつなげていくかを話し合うために、9月に振り返り会をすることになったんです。
(※3)YouTube「学生団体edunka」:学生団体 edunka – YouTube
楽しかった地蔵盆、次にどうつなげる
杉野さん(edunka):初めて地蔵盆に関わらせてもらい、まずは子どもたちに喜んでもらえて本当に良かったと思います。準備から片付けまで子どもも大人も一緒になり、人との距離が近くなった気がします。ただ、年配の方が参加されなかったのが心残りです。とんとん拍子に話が進み、開催できたことは良かったのですが、時間をかけながら、お住いの方同士の関わりを大切にして進めた方が良かったのかも。ずっと住まわれている方々にも、昔の地蔵盆のことを聞いてみたいと思いました。
横田さん: 商店街のお店の方や理事長の乾さんともやり取りが増えて、つながりができたのは嬉しいですね。堀川団地に越してきて以来、町内の人同士で一緒に何かすることはなかったので、何をしたらよいかも分からない中、学生の皆さんに手伝ってもらうことで「できるんだ」と思いました。来年は団地にお住いのアーティストさんにも参加してもらえたら良いな。
町内会はこれまで、団地1階にある商店街のお店の方が持ち回りで町内会長を担っていたそうです。かつて、団地に暮らしつつお店を営んでいたころの名残だと思うのですが、団地住民として町内会に関わっていきたい、という思いもあり、来年度は私が町内会長を引き受ける予定です。
飯高さん:来年度は横田さんが町内会長を引き受けてくださる予定なので、今の状況に合った形に変えていくチャンスかもしれませんね。町内会の会合やルールがないので、今年の地蔵盆のことを回覧や掲示でお知らせして、来年について話し合える機運を作れるといいな、と思います。4月に町内会費を集める時に、地域のいろんな活動の案内をしたら興味を持ってもらえるかも。地蔵盆を開催することがゴールではなく、団地に住んでいる人同士が声をかけ合え、商店街の皆さんとも協力し合って暮らせるよう、町内会活動についてこれからも一緒に考えて行きたいと思います。今年の地蔵盆は、その第一歩になったのではないでしょうか。
【上京区、加入約10世帯】
取材:令和5(2023)年9月26日
【取材後記】
様々な方の協力があって途絶えていた地蔵盆が実現した事例。振り返り会では、学生の皆さんからも「来年はお年寄りの方に来てもらえるようにしたい」という声があり、住民と一緒の目線で関わることで、世代を超えてつながり合う地蔵盆の本来の意義が感じられたのではないかと思います。
住民の声にすぐ対応、『きづきのはこ』
南区の桂川ハイツは、昭和50~52(1975~1977)年に建設された、約690世帯が入居する大規模な共同住宅です。日常生活で気づいたことを気軽に役員に届けられるよう『きづきのはこ』を設置するなど、年を重ねても安心して暮らせるよう様々な取組をされています。(参照:京都の自治会・町内会『困ったときのヒント集』Vol.2掲載事例)
令和5年度の管理組合役員の皆さんにお話を聞かせていただきました。
住民が多く、会議だけでは困りごとが把握できない
山口さん:桂川ハイツは5棟にわかれています。管理組合の役員には全棟役員(任期3年)と各棟役員(任期1年)があり、合計約40名で理事会を開催していますが、入居者が多いため会議だけでは日常的な困りごとを把握しにくいという課題がありました。そこで、約20年前から、各棟の玄関に『きづきのはこ』を設置しています。
各棟の棟理事役員は、毎月理事会の前に箱の中を確認し、その後の理事会で対応策を考え、可能な限りすぐに実行しています。投函者へも対応策についてお返事ができるよう、できるだけ記名をお願いしています。『きづきのはこ』は、理事会や総会に出せなかった意見や、日々の暮らしの中で気づいた問題点などを、いつでも誰でも投函できるので、すぐに解決されやすい、というメリットがあります。どういった意見があったかは、理事会の議事録にも掲載されますし、みなさんにも共有しやすいですね。
浅沼さん:『きづきのはこ』の中には、ペットや騒音などの近隣関係の問題も多く、本来は住民同士で解決していく内容なのですが、理事会で検討することで、役員みんなで一緒に対応策を考えることができます。ほとんどが困りごとですが、たまにお礼のお手紙が入っていると嬉しくなりますね。
入居50年、住民の高齢化が進んでいる
山口さん:入居当時は子どももたくさんいて賑やかでしたが、現在、小学生は約30人。近年は75歳以上の方が増え、独居も約170世帯あります。当初から管理組合もしっかり機能しており、コロナ禍以前は、花火や夏まつり、バス旅行など、活発に親睦活動を行っていましたが、コロナ禍で活動ができなくなってからは、できるだけ高齢入居者同士が顔を見せ合える活動を心がけてきました。
その1つが、各棟の玄関にベンチを置いたことです。近年、デイサービスの送迎車を待つお年寄りが増えたため、ちょっとした休憩場所として使われるようになりました。また、コロナ禍に大型スーパーから移動販売の提案があり、週に2回、団地内に移動販売車に来てもらうことになりました。近所にスーパーが少ないため、お身体の不自由な方や年配の方が利用され、これまで会う機会がなかった方同士が顔を合わせる機会にもなりました。コロナが落ち着いた現在も、生ものや重いものなどの需要があり、いつも来られる方の顔が見えないと部屋まで様子を見に行くなど、住民同士の見守りにもつながっているようです。
中町さん:入居当初から見ると暮らし方も変わってきましたし、役員も交替していきます。だから、その時その時の役員が『やってみよう』と思うことを1つずつ試し、良かったものは翌年以降も引き継ぎながら、これまで活動をつなげてきた、という感じですね。これからも安心して暮らし続けられる団地でありたいと思います。
【南区、約690世帯】
取材:令和5(2023)年8月24日
【取材後記】
世帯数の多い地域では、意見集約や合意形成にも大変な労力がかかりますが、『きづきのはこ』は共同住宅ならではのアイデア。誰でも気軽に意見を言いやすく、それに対して役員みんなで対応策を考えているところが参考になります。また、住民の暮らし方やニーズの変化に応じて、柔軟に対応策を考えていくことが、継続のコツなのかもしれません。
住民同士が一緒に取組む、花ともサークル
中京区の藤和シティコープ西洞院は、昭和59(1984)年に建設された、10階建ての約60世帯のマンション。入居者の高齢化が進む中でも、入居者同士がつながり、見守り合うことで、独居高齢世帯でも安心して暮らせるマンションを目指しています。管理組合の中山理事長にお話を伺いました。
きっかけは、誰が住んでいるのかわからない、という声
中山さん:このマンションは、居住者同士のコミュニケーションの機会が少なく、隣近所の付き合いがあまりありませんでした。入居者から「誰が住んでいるのかわからない」、「もっと交流ができたらいいな」という声もあり、何かできないだろうかと思ったんです。そこで、約10年前、玄関外溝のサツキが枯れて全面取替となったタイミングで、当時の理事会の有志で「花ともサークル」をスタートしました。マンションの玄関先と、駐車場の一角に花壇を作り、季節ごとの花を植えて楽しむ活動で、現在も月2回、植物の世話をしています。マンション住民なら誰でも参加できますが、高齢者が中心ですね。でも、小さいお子さんのいる世帯も参加されているので、子どもが来て一緒に水やりをしてくれます。始めは、ただ植物の世話をすることが目的だったのですが、「メンバーが休んでいたら気になる」という話にもなるので、結果的に高齢者の見守りにつながっていますね。近所の人も、玄関先の植物を見てくれているようで、通りがかりに声をかけられます。
中山さん:最近、マンション駐車場のうち、もともと受水槽のあった場所が空きスペースになったので、イスとテーブル、パラソルを置いて『憩いの場』を作ったんです。この場所を使って、健康体操や地蔵盆を行いたいと考えました。町内会の地蔵盆はいつも、町内にある会社の道路沿いの軒下で行っていましたが、場所が狭く密になるため、広い場所で行えないかと声が挙がり、理事会で検討した結果、マンション駐車場で開催できることになりました。令和5年度はコロナ禍の影響で行う事が出来ませんでしたが、マンション内にも7人ほど子どもがいるので、来年できるのを楽しみにしています。
中山さん:管理組合の理事会は、役を担える25世帯で5人ごとのグループを作り、1年任期で回しています。5年で一巡する流れですね。このほかに、常任理事等として2~3名にも協力いただいています。管理組合の理事長は、自主的に動けて主体性のある人が向いていると思いますね。新たに入居された世帯には、子育て世帯であれば地蔵盆、高齢世帯であれば健康体操というように、まずその世帯に魅力に思ってもらえる町内会や自治会の行事をお伝えするようにしています。
お年寄りも安心して暮らせるまちに
中山さん:マンションがある本能学区では、令和4(2022)年9月から「おとしより110番のいえ」を実施することになりました。これは、元気がない高齢者を見かけた時「おとしより110番のいえ」に行くと、学区社会福祉協議会から地域包括支援センターにつなげてもらえるという取組です。私たちのマンションでは、各階1世帯ずつ学区社協に登録し、現在登録している7世帯でグループを立ち上げて活動しています。管理会社の管理人にも協力頂き、玄関前にステッカー(右図)を貼っています。この取組の魅力は、年2回、学区社協の勉強会がある事です。さらに、マンション入居者の中で支援が必要だな、と思われる3世帯とは、事前に交流会を行って親しくなりました。いざという時に同じマンションに住む人が助けてくれることがわかるだけでも安心感があるんじゃないかな。今後、残っている2つの階からも「おとしより110番」に登録してくれたら嬉しいですね。
グループでは、令和5(2023)年4月から新たに「おきらく体操会」という取組を始めました。マンションの敷地内で、マンション住民と同町内の住民が一緒になって体操を行います。月1回ですが、毎回約10名の参加者があり、高齢者の見守りとなっています。
中山さん:水処理技術者でしたから、マンションの給水管・雑排水管の水漏れやその他、クレーム連絡票の対応などが得意です。その経験を活かして、入居者のいろんな声や困りごとを聞くようにしています。長く地域活動にも関わらせてもらっているので、中京区や他学区の活動事例を積極的に取り入れて、良いと思った事例はできるだけ取り込むようにしています。
【中京区、加入約60世帯】
取材:令和5(2023)年8月16日
【取材後記】
長く地域活動に関わられているため、工夫されてきたことがまだまだありそう。ご自身のこれまでの経験を活かしつつ、他の地域の事例も積極的に集められており、まず行動される姿から、「何かあれば中山さんに相談しよう」という雰囲気につながっているように感じました。
地蔵盆、近隣マンションにも呼びかけ
中京区の綿屋町町内会は、事業用ビルが立ち並び、町内会加入世帯数が減少している地域。途絶えた地蔵盆を復活するときに、幅広く子どもたちに京都の文化に触れてもらえるよう、近隣のマンションへ参加を呼びかけました。町内会役員の村上さんと井上さん、マンションにお住まいで自治連合会役員の冨名腰さんにお話を伺いました。
「受け継がれてきた地蔵盆」
井上さん:この辺りは、戦争時の道路拡幅に伴い町の北半分は建物がなくなり、世帯数が半減した歴史があります。現在は、町内会活動を支えていただく法人会員を除くと、個人会員は4軒しかなく、世帯数の減少に伴い行事も縮小しています。
以前は地蔵盆が活発に行われてきた町内で、町内に引き継がれている『地蔵會記録』によると、昭和8年に地蔵盆を開催した記録が残っています。この町内の地蔵盆は、大きな切り子燈籠を飾っているのが特徴で、昔の写真でもその様子が見られます。お地蔵さんは、金の箱に入れて仕舞われ、普段は近くのお寺さんに預けています。
「子どもたちにまた地蔵盆を経験してほしい」
村上さん:子どもの頃に経験した地蔵盆はとても楽しく、お菓子をもらったり遊んだりした記憶が、今でもしっかり頭に焼き付いていますね。仕事でしばらく京都を離れており、戻ってきたときには町内がご高齢の方ばかり。地蔵盆は役員のお参りだけになっていたのがとても残念でした。そこで、現代の子どもたちにもぜひ地蔵盆を経験してほしい、と、平成26(2014)年に地蔵盆を復活させました。
「マンションにも呼びかけ」
村上さん:復活するにあたり、また昔のように楽しい地蔵盆をしたいけど、肝心の子どもがいないのでどうしていいのかわからなかったんです。そこで、自治連合会の会議で相談したところ、役員の冨名腰さんと意気投合し、子どもが多く住んでいるマンションにも呼びかけてみることになりました。
すると、マンションからもたくさんの子どもが参加してくれて。昔のように賑わったまちの様子を見た時には、本当にやって良かったと思いました。町内の真ん中を通る道路を通行止めにして、流しそうめんやスイカ割りなどもしているので、周りからは珍しく見えるだろうね。それ以降、誰でも参加していいんだよ、と呼び掛けていたら、外孫や近所の子どもも来るようになり、通りがかりの外国人が参加したこともありました。
今では、大学生のボランティアが紙芝居を作ってくれたり、町内の方がご厚意で景品やおもちゃを用意してくださるなど、いろんな方が子どもたちのために協力してくれています。
冨名腰さん:マンション側としては、管理組合総会で『伝統行事費』として決議し、地蔵盆をされる町内会へ協力金とお供えをお渡ししています。毎回、小学生以下約15人の子どもたちが地蔵盆に参加しますね。また、地蔵盆当日の夜に花火を行うことで、マンション住民同士の交流も図っています。コロナ禍で地蔵盆に参加できなかった時は、子どもたちにおもちゃとお菓子を配っていましたし、少しでも地蔵盆の文化を感じてもらうきっかけになればいいな、と思います。
村上さん:令和5(2023)年は、コロナ禍で縮小していた地蔵盆を以前と同じ規模で開催しました。テーマは『子どもに楽しい思い出を』。痛んでいた数珠を直し、気持ちよくお経や数珠回しを再開できましたね。久しぶりに、道路を通行止めにして、流しそうめんやスイカ割りなどもやりました。暑い日でしたが約50名の方が来られていました。
「感謝の気持ちを引き継いでいく」
村上さん:地蔵盆を続ける原動力は、子どもたちに感謝の気持ちの大切さを伝えたいからです。昔は、お商売の一軒家が建ち並んでいたから、近所同士のつきあいがしっかりあり、行事をするときも地域の大人たちが自ら動いて子どもたちを楽しませてくれていました。子どもには、おやつやゲームなどの楽しい思い出として残るだろうけど、大人になるにつれ、知らないうちに、お地蔵さんに感謝して手を合わせる気持ちを学んでいたことに気付いていくもんです。だから、今の子どもたちにも、手を合わせる経験を通して、周りの人への感謝の気持ちの大切さを身につけてほしい。だから、朝10時からのお坊さんのお経の時間に来ていない子にはお菓子をあげないんや(笑)。
冨名腰さん:マンションにお住いの方の中には、地蔵盆のことを知らない方もいはるんですが、京都の文化には非常に興味を持たれます。地蔵盆は、観光では経験できない、京都の暮らしの文化を経験できる貴重な機会ではないでしょうか。地蔵盆を復活したころに参加していた子どもたちはもう大人になっています。これからは、その経験を活かして、共に支え合う存在にもなっていってほしいですね。
【中京区、約10世帯】
取材:令和5(2023)年7月21日
【取材後記】
町内会に入っていないと地蔵盆に参加できない、と聞くことが多いのですが、呼びかけ方の工夫次第で誰でも参加できる、ということがわかりました。子どもがたくさんいると大人も張り切って準備しますし、近所で顔見知りができるきっかけにもなります。繰り返すことで、今度は地蔵盆を経験した子どもたちが、引き継いでいってくれるといいなと思います。
ホテルと一緒に、お祭りを企画
北区の鏡石町町内会は、町内の同じ通りに大きなホテルがいくつも立地する地域。その中で、近年新しくできたホテル事業者と、地域住民が楽しめるお祭りを一緒に企画されましたので、町内会長の西さんとROKU KYOTO,LXR Hotels & Resorts総支配人の西原さんにお話を伺いました。
「地域のために一緒に何かやってみよう」
西さん:ホテルとは、建設前から継続的に協議を重ねていました。その中で、「一緒に何かしませんか」と提案したところ、ホテル側も『ぜひ地域に貢献したい』と協力的な姿勢を示してくださいました。そこで、まず町内の年間行事をホテル側にお見せし、何ができるかを協議したんです。その結果、ハロウィンやクリスマス、敬老の日にホテル側からお菓子を振る舞ってくださったり、キッチンカーを出して盛り上げてくださったりと、たくさんの協力をいただきました。その後、一緒にお祭りを企画することになり、月1回の連絡会議を重ねていましたが、コロナ禍で中止を余儀なくされて…。
「念願のフェスタ開催」
西さん:今年5月、ようやく念願だった「鏡石フェスタ」を開催することができました。綿密に準備を重ねてきたのですが、当日は大雨。それでも町内から約220名が参加し、大盛況でした。当日は、ホテル側が手配してくださったキッチンカー4台と、ヨーヨー釣りや射的などの縁日コーナー、また、豪華賞品が当たるビンゴ大会が行われて大盛り上がり。ホテル従業員と町内会役員が一緒にスタッフをしましたが、若い人も多くてとても助かりました。
西原さん:町内の方が喜んでくださって何よりです。町内会役員の中にはホテルで働く方もいらっしゃり、ホテルと町内会のつなぎ役になってくださいますね。地域のご理解あってのホテル事業ですから、いつも何かしら地域のお役に立ちたい、という思いでいますので、当日は、ホテル従業員約20名が協力しました。ほかにも、週1回の地域の清掃活動や、年末の夜回りに1組を担当して参加しています。
「地域の皆さんが喜んでくださるのが何より」
西さん:地域の皆さんが喜んでくださるのが何より嬉しいので、私で良ければ、と、町内会長を引き受けて4年になります。実はもともと九州の出身で、京都に引っ越してきて45年ほど。約20年前にも町内会長をさせてもらったのですが、当時は住宅が増え、子どももどんどん増えていました。子どもたちのために何かできないか、という思いから、その時に子ども会を立ち上げたんです。現在も、保護者が中心となって旅行などを計画しているようですが、当時の子どもたちは今では大人。鏡石フェスタにもお手伝いで参加してくれました。
(令和5年の鏡石フェスタの様子)
「その時その時で工夫しながら活動する」
西さん:町内会では、住民の方の声をもとに、様々な工夫を取り入れています。例えば、夜回りで「拍子木の音が聞こえにくい」という意見をいただいときには、拡声器で大人の声を流しても面白くないので、子どもの声を録音して流したら大好評でした。地域の誰もが安心して暮らせるよう、この地域で火事も事故もおこさせない、という思いです。これからも楽しく工夫して活動していきたいと思います。
【北区、加入約160世帯】
取材:令和5(2023)年5月14日
【取材後記】
フェスタでは、地域の皆さんが気軽に会長に声をかけておられたのが印象的でした。地域側のスタッフにも若い世代が関わり、ホテル事業者と地域とのつながりだけでなく、世代を超えて地域住民が関わることができるお祭りとなっていました。ホテル事業者の協力で、住民同士のつながりを一層深めることができる事例だと思います。
事務局グループを作って、町内会役員をバックアップ
東山区の東高松町内会は、高齢世帯が増えるとともに、空き家やアパート、民泊なども増加している地域。
そんな中、高齢世帯でも役を担うことが負担にならず、誰でも楽しく町内会活動に参加できるよう、役員をサポートする事務局グループの皆さんにお話を伺いました。
最初のきっかけは「近くに買い物できるところがない」
高橋さん:地域での話し合いの際に、「ご高齢の方が近くで買い物できる場所がなくて困っている」という声が出たことをきっかけに、町内の有志で、買い物のお手伝いや電球の交換などのちょっとした困りごとを助ける小さなボランティア活動を始めました。その後、買い物の不便さについては、毎週、移動販売車に来てもらえるようになり、近所の人同士で顔を合わせる機会にもなったのですが…。
まだまだある町内会の困りごと…「役員決めで揉めてしまう」
中村さん:町内の方と話していると、いつも町内会の困りごとの話にも及びます。私たちの町内は8組で構成され、毎年、各組から1人ずつ輪番で組長が選出されます。その8人の組長で町内の役を分担するのですが、町内会長を選ぶときは押し付け合いになり、くじ引きで決めることもありました。町内会の役員は、事務作業の面倒さや引継ぎ資料の多さに加え、リーダーになることや、やったことのない役を担うことへの不安が大きいと思います。
市川さん:高齢者の方が増え続けているため、町内の組数や人数が減り役員ができる人数が減少しています。誰でも簡単に安心してできる役割づくりができれば、更に活気がある素敵な町内会になるのではないかと思います。
「誰が役員になっても不安なく担えるようにしたい」
丸野さん:町内には、近所の広場でイベントを行ったり、移動販売車に来てもらえるよう交渉するなど、積極的に活動している方々がいることが分かったことで「他にも何かできることがあるんじゃないか」と思ったのです。そこで、「町内会をどうにかしなければ!」と思っていた私達女性のグループ(30~60代)で話し合い、事務局グループを立ち上げることになりました。発足当時は通称「東高松町レディース」、代表のことはノリで「総長」と呼んでいました(笑)。現在は「東高松向上委員会」と改名し町内会の役員の承認も得て活動しています。
山本さん:私たちは、町内会がなくなると困ります。空き家や民泊が増え、見知らぬ人が町内をうろうろすると防犯上不安だし、大災害が来たら近所のつながりが絶対必要になる。それに、例えばゴミ当番もそうですが、町内会がなくなると回らない小さなことがたくさんあります。次の世代に不安を残さないためにも、自分たち世代が町内のつながりを残していかなければ、と思い、行動に移しました。
「町内会役員をバックアップする事務局グループ」
谷口さん:次年度役員になる方に、「事務局グループがあるから大丈夫ですよ~」と言うことで、役に対する負担感が少しでも軽くなるといいですね。その結果、役を引き受けよう、と思える人が増えるといいな。大切にしているのは、基本的にその年の役員が中心となって町内会活動を運営していただき、事務局グループはでしゃばらず、役員が苦手なことや手伝ってほしいことを聞いて引き受けるようにすることです。メンバー同士、「グループで動くことで誰か一人の負担にせず、できる人ができる事をできる時にする」…ここを一番大切にしていこうと確認しあっています。楽しく和気あいあいと始めた取り組みですが、主婦目線の鋭い視点からの発想は中々面白いものがあり、話し合いはいつも盛り上がります。
「住民同士が交流できる企画を考えました」
髙橋さん:今年は、4年ぶりに地蔵盆を開催することになりました。久しぶりに行う町内会の行事なので、住民同士が交流する機会も作れないかと考え、午前中は地蔵盆、午後は交流イベントと、2部制にしました。ご高齢の方には、町内のヨガの先生にお願いして健康体操の時間を、子どもたちにはゲームの時間などを設け、それぞれの世代が一緒に楽しめるプログラムを考えました。もちろん、交流イベントには転入者や町内会未加入者も参加できるので、当日も何軒かお誘いに行くと、4月以降引っ越して来られたプエルトリコ出身の方が参加されました。町内にスペイン語を話せる方がいるなどの新たな発見もあり、町内の住人が世代を超えて新旧交えながら、4年ぶりの行事を楽しむことができました。
(住民同士の交流イベントの様子)
他にも、役員に引き継がれている資料のデータ化や、町内会の行事以外の住民同士が交流できるイベントの企画などをしています。役員の負担を軽くするだけでなく、様々な工夫を取り入れて、老若男女問わず楽しく関わり合えるような町内にしていきたいと思います。
【東山区、加入約90世帯】
取材:令和5(2023)年8月26日
【取材後記】
子育てをひと段落された世代が口をそろえて「町内会がないと困る」とおっしゃっていたのが印象的でした。子育てを通じてできたつながりが、親世代が年老いていくことでまた困りごとのタイミングが合い、一緒に取り組めるグループにまでなっています。この事例のように、支え合い、助け合いの信頼の連鎖が世代を超えて受け継がれていくためにも、時代に合った新しい取組みが必要とされているように感じました。