地蔵盆、近隣マンションにも呼びかけ
中京区の綿屋町町内会は、事業用ビルが立ち並び、町内会加入世帯数が減少している地域。途絶えた地蔵盆を復活するときに、幅広く子どもたちに京都の文化に触れてもらえるよう、近隣のマンションへ参加を呼びかけました。町内会役員の村上さんと井上さん、マンションにお住まいで自治連合会役員の冨名腰さんにお話を伺いました。
「受け継がれてきた地蔵盆」
井上さん:この辺りは、戦争時の道路拡幅に伴い町の北半分は建物がなくなり、世帯数が半減した歴史があります。現在は、町内会活動を支えていただく法人会員を除くと、個人会員は4軒しかなく、世帯数の減少に伴い行事も縮小しています。
以前は地蔵盆が活発に行われてきた町内で、町内に引き継がれている『地蔵會記録』によると、昭和8年に地蔵盆を開催した記録が残っています。この町内の地蔵盆は、大きな切り子燈籠を飾っているのが特徴で、昔の写真でもその様子が見られます。お地蔵さんは、金の箱に入れて仕舞われ、普段は近くのお寺さんに預けています。
「子どもたちにまた地蔵盆を経験してほしい」
村上さん:子どもの頃に経験した地蔵盆はとても楽しく、お菓子をもらったり遊んだりした記憶が、今でもしっかり頭に焼き付いていますね。仕事でしばらく京都を離れており、戻ってきたときには町内がご高齢の方ばかり。地蔵盆は役員のお参りだけになっていたのがとても残念でした。そこで、現代の子どもたちにもぜひ地蔵盆を経験してほしい、と、平成26(2014)年に地蔵盆を復活させました。
「マンションにも呼びかけ」
村上さん:復活するにあたり、また昔のように楽しい地蔵盆をしたいけど、肝心の子どもがいないのでどうしていいのかわからなかったんです。そこで、自治連合会の会議で相談したところ、役員の冨名腰さんと意気投合し、子どもが多く住んでいるマンションにも呼びかけてみることになりました。
すると、マンションからもたくさんの子どもが参加してくれて。昔のように賑わったまちの様子を見た時には、本当にやって良かったと思いました。町内の真ん中を通る道路を通行止めにして、流しそうめんやスイカ割りなどもしているので、周りからは珍しく見えるだろうね。それ以降、誰でも参加していいんだよ、と呼び掛けていたら、外孫や近所の子どもも来るようになり、通りがかりの外国人が参加したこともありました。
今では、大学生のボランティアが紙芝居を作ってくれたり、町内の方がご厚意で景品やおもちゃを用意してくださるなど、いろんな方が子どもたちのために協力してくれています。
冨名腰さん:マンション側としては、管理組合総会で『伝統行事費』として決議し、地蔵盆をされる町内会へ協力金とお供えをお渡ししています。毎回、小学生以下約15人の子どもたちが地蔵盆に参加しますね。また、地蔵盆当日の夜に花火を行うことで、マンション住民同士の交流も図っています。コロナ禍で地蔵盆に参加できなかった時は、子どもたちにおもちゃとお菓子を配っていましたし、少しでも地蔵盆の文化を感じてもらうきっかけになればいいな、と思います。
村上さん:令和5(2023)年は、コロナ禍で縮小していた地蔵盆を以前と同じ規模で開催しました。テーマは『子どもに楽しい思い出を』。痛んでいた数珠を直し、気持ちよくお経や数珠回しを再開できましたね。久しぶりに、道路を通行止めにして、流しそうめんやスイカ割りなどもやりました。暑い日でしたが約50名の方が来られていました。
「感謝の気持ちを引き継いでいく」
村上さん:地蔵盆を続ける原動力は、子どもたちに感謝の気持ちの大切さを伝えたいからです。昔は、お商売の一軒家が建ち並んでいたから、近所同士のつきあいがしっかりあり、行事をするときも地域の大人たちが自ら動いて子どもたちを楽しませてくれていました。子どもには、おやつやゲームなどの楽しい思い出として残るだろうけど、大人になるにつれ、知らないうちに、お地蔵さんに感謝して手を合わせる気持ちを学んでいたことに気付いていくもんです。だから、今の子どもたちにも、手を合わせる経験を通して、周りの人への感謝の気持ちの大切さを身につけてほしい。だから、朝10時からのお坊さんのお経の時間に来ていない子にはお菓子をあげないんや(笑)。
冨名腰さん:マンションにお住いの方の中には、地蔵盆のことを知らない方もいはるんですが、京都の文化には非常に興味を持たれます。地蔵盆は、観光では経験できない、京都の暮らしの文化を経験できる貴重な機会ではないでしょうか。地蔵盆を復活したころに参加していた子どもたちはもう大人になっています。これからは、その経験を活かして、共に支え合う存在にもなっていってほしいですね。
【中京区、約10世帯】
取材:令和5(2023)年7月21日
【取材後記】
町内会に入っていないと地蔵盆に参加できない、と聞くことが多いのですが、呼びかけ方の工夫次第で誰でも参加できる、ということがわかりました。子どもがたくさんいると大人も張り切って準備しますし、近所で顔見知りができるきっかけにもなります。繰り返すことで、今度は地蔵盆を経験した子どもたちが、引き継いでいってくれるといいなと思います。