学生の関わりがきっかけとなり、地蔵盆を復活
上京区の奈良物町は、堀川団地の住民や商店で構成される町内会です。子どもが少なく、コロナ禍もあって一度休止となった地蔵盆を、学生が協力することで令和5(2023)年度に復活されました。地蔵盆の振り返り会にお邪魔し、学生グループ「edunka(エデュンカ)」の皆さんと団地の方々のお話を伺いました。
きっかけは、学生の「地蔵盆を手伝ってみたい」
牧さん(edunka):私たち「edunka(エデュンカ)」は、「興味関心の種を撒く」というテーマで大学生のやってみたいを実践するグループとして、令和5(2023)年5月に同志社大学社会学部教育文化学科の5名で立ち上げた学生団体です。活動を始めるにあたり、まずは「自分たちのやってみたい」を実行してみようと、メンバーの一人が子ども時代に経験した「地蔵盆」について関心を持ち、6月にゼスト御池で行われた『京の地蔵盆・夏祭り相談会』※1に行って情報を集めました。そこで、「京都市のまちづくりアドバイザーに相談したらいいよ」というアドバイスをもらい、上京区役所に出向いたのが始まりです。
上京区役所の京都市まちづくりアドバイザー亀村さんから、「『上京朝カフェ』※2でみなさんの思いを伝えたら、地蔵盆に関わっている人と出会えるかもしれないよ」とアドバイスがあり、早速参加したところ、いくつかの町内会の方とお話しすることができ、そのうち2つの町内会で地蔵盆をお手伝いできることになりました。
(『上京朝カフェ』の様子)
(※1)町内会長や担当者さんの地蔵盆や夏祭り開催・準備等のお悩みをプロの業者や学生が伺い、解決につなげていく相談会。
主催:「京の地蔵盆・夏祭り開催の請負人」実行委員会、共催:京都市・ゼスト御池地下街。
(※2)上京区民の有志で毎月行っている交流の場。「まち」や「つながること」に関心のある人なら誰でも参加できる。
団地住民同士が交流するために、地蔵盆ができたらいいな
横田さん(団地住民):私は、団地に住んで6年目で、小学生以下の子どもが3人います。団地には、長年住まれているおばあちゃんやものづくりをされている方など、様々な方が住んでおられますが、あいさつをし合ったり、外で遊ぶ子どもたちを見守ってくれたりして、とても安心感があります。ただ、空き室が出ると新しい方が入ってきて住民が入れ替わるので、もっと団地の人同士で交流ができるように、地蔵盆を復活できないかな、と思ったんです。数年前までは地蔵盆をされていたと聞いたのですが、わからないことが多く、なかなか具体的に動くことが出来なかったところ、商店街でギャラリーを運営されているNPO法人ANEWAL Gallery(アニュアルギャラリー)の方と知り合うことができ、地蔵盆を手伝いたいという学生さんがいるからできるかもしれない、と聞きました。
飯高さん(NPO法人):私は、団地を管理している京都府住宅供給公社の委託で『NO.317 ANEWAL Gallery』を運営しています。私も、edunkaさんが参加された『上京朝カフェ』に参加していて、学生さんたちのお話を聞くとすぐに、地蔵盆をやりたいという横田さんたちのことを思い浮かべました。でも、学生の皆さんがどのくらい地域のことを理解して協力してくれるかわからなかったので、まずは、団地にお住いの方や商店街のお店の方にお話を聞いてみたら、と伝えたんです。私たちのように地域の文化や芸術の振興を目的としたNPOだからこそ、地域の方同士、また、地域の方と学生の皆さんをつなぐ役割ができると思いました。そして、地蔵盆を開催することがゴールではなく、これからのつながりづくりのきっかけになるといいな、と思いました。
住民と商店街とのつながりも
森本さん(edunka):様々な立場の方のお話を伺うと、団地にお住いの方々と商店街の方々とのつながりが意外と少ないことがわかりました。また、団地に新しく越して来られた方は、子どもたちのためにもぜひ地蔵盆をやりたい、と話されていて、私たちは子どもと遊ぶことが得意なので、ぜひ協力させてもらいたいと思いました。
横田さん:学生の皆さんの関わりが決まり、会場は『NO.317 ANEWAL Gallery』を使わせてもらえることになり、地蔵盆復活に向けて、アニュアルギャラリーやedunkaのみなさんと何度も打ち合わせを重ねました。昔の備品を探したり、祭壇の飾り方を調べたり、と、手探りでしたね。団地にお住いの皆さんへは私が呼びかけて、お供えなどの物品調達は商店街理事長で団地にお住いでもある乾さんにお願いして。町内会未加入者にもお知らせするための回覧板づくりは飯高さん、地蔵盆当日のプログラムづくりはedunkaの皆さん、と、うまく役割分担ができたと思います。今回は、これからも地蔵盆を続けることを考え、提灯を新しく購入させてもらいました。
矢野さん(edunka):地域の方々のお話を伺いながら一緒に準備を進めたので、皆さんの思いに精一杯応えたい、という気持ちでした。当日は午前中からお地蔵さんの飾りつけや子どもたちのゲームの準備をして、14時からの地蔵盆には大人約10名と子ども7名、それから私たちや関係者も含めると全部で約30名が参加しました。伝統的な数珠回しやふごおろしも、自分たちで調べてやってみました。
由利さん(edunka)私たちが特に力を入れたのが紙芝居です。子どもたちに地蔵盆のことを少しでも知ってもらおうと、ストーリーを考えて手書きで仕上げ、セリフや効果音もつけて練習をしました。小さい子も最後まで静かに見てくれて嬉しかったです。力作なのでyoutube※3にもアップしました。
(地蔵盆の様子)
脇坂さん(団地住民):子どもたちは、大学生のお兄さんやお姉さんとすぐに打ち解けていましたし、大学生の皆さんも一緒に熱中して遊んでくれたので、賑やかな地蔵盆になりました。終わった後は子どもたちも一緒に片付けをしていましたね。来年もしたい、という声もあり、この地蔵盆を次にどうつなげていくかを話し合うために、9月に振り返り会をすることになったんです。
(※3)YouTube「学生団体edunka」:学生団体 edunka – YouTube
楽しかった地蔵盆、次にどうつなげる
杉野さん(edunka):初めて地蔵盆に関わらせてもらい、まずは子どもたちに喜んでもらえて本当に良かったと思います。準備から片付けまで子どもも大人も一緒になり、人との距離が近くなった気がします。ただ、年配の方が参加されなかったのが心残りです。とんとん拍子に話が進み、開催できたことは良かったのですが、時間をかけながら、お住いの方同士の関わりを大切にして進めた方が良かったのかも。ずっと住まわれている方々にも、昔の地蔵盆のことを聞いてみたいと思いました。
横田さん: 商店街のお店の方や理事長の乾さんともやり取りが増えて、つながりができたのは嬉しいですね。堀川団地に越してきて以来、町内の人同士で一緒に何かすることはなかったので、何をしたらよいかも分からない中、学生の皆さんに手伝ってもらうことで「できるんだ」と思いました。来年は団地にお住いのアーティストさんにも参加してもらえたら良いな。
町内会はこれまで、団地1階にある商店街のお店の方が持ち回りで町内会長を担っていたそうです。かつて、団地に暮らしつつお店を営んでいたころの名残だと思うのですが、団地住民として町内会に関わっていきたい、という思いもあり、来年度は私が町内会長を引き受ける予定です。
飯高さん:来年度は横田さんが町内会長を引き受けてくださる予定なので、今の状況に合った形に変えていくチャンスかもしれませんね。町内会の会合やルールがないので、今年の地蔵盆のことを回覧や掲示でお知らせして、来年について話し合える機運を作れるといいな、と思います。4月に町内会費を集める時に、地域のいろんな活動の案内をしたら興味を持ってもらえるかも。地蔵盆を開催することがゴールではなく、団地に住んでいる人同士が声をかけ合え、商店街の皆さんとも協力し合って暮らせるよう、町内会活動についてこれからも一緒に考えて行きたいと思います。今年の地蔵盆は、その第一歩になったのではないでしょうか。
【上京区、加入約10世帯】
取材:令和5(2023)年9月26日
【取材後記】
様々な方の協力があって途絶えていた地蔵盆が実現した事例。振り返り会では、学生の皆さんからも「来年はお年寄りの方に来てもらえるようにしたい」という声があり、住民と一緒の目線で関わることで、世代を超えてつながり合う地蔵盆の本来の意義が感じられたのではないかと思います。