『町内会サミット』を開催し、他の町内会と情報交換
中京区松原町西南部町内会は、時代に合った町内会運営に見直すために女性が会長を引き受け、他の町内会と一緒に困りごとを話し合う『町内会サミット』を開催されました。令和5(2023)年度町内会長の大関さんと役員の向井さんにお話を伺いました。
きっかけは、翌年度役員が決まらない
大関さん:町内会長になったきっかけは、町内会の運営方法を見直さないと誰も役員ができなくなる、という危機感でした。私も会長を長く続けるつもりはないので、誰でも担いやすい形に変革することを条件に、町内会長を引き受けたんです。とにかく役員の仕事が大変なのは、夫が町内会長だった前年度に実感していました。2人で協力しても、仕事や子育てに大きくしわ寄せが来るほど時間を割かれていました。さらに、翌年度役員を決めるため、対象となる世帯へ役員が1軒1軒お願いに行ったものの立て続けに9軒に断られ、何のために町内会をやっているのかわからなくなり、「町内会なんてなくても良いんじゃないか」とまで話し合われました。
困り果てた前年度役員は、なんとか翌年度に引き継ぎたい一心で、どうしたら良いか町内の皆さんに意見を聞いて決めることにしました。町内会の運営についての匿名アンケートの回答をもとに3月に行われた意見交換会。「町内会は必要だと思うが役ができない」という声が多い中、ある方の「町内に知り合いがいなくなるのは生きにくい」という発言をきっかけに、はっと冷静になりました。確かに町内会活動は大変だけど、関わりができることであいさつし合える関係になった人もいる…。その後、町内会の意義を再確認し合う雰囲気が広がり「住んでいる町について知れて嬉しい」「お互い助け合いの気持ちで役も受け止めていきたい」という、前向きな発言も増えていきました。想像していた以上に町内の方と本音で話し合うことができ、町内会の意味も見いだせそうな気がしたので、「ここまで課題を洗い出しておいて、知らないふりをして次の人に会長を回すことはできない」と考え、私が夫から引き継いで町内会長を担うことにしたんです。
すると、一度断られた方も役を引き受けてくださることになり、選挙で決まった副会長と会計、それから前年度の3役も一緒に、6人体制で運営方法を見直していくことになりました。実は、これまで「女性は会長になれない」という慣習があったのですが、令和5(2023)年度役員6人のうち5人が女性となったことも、大改革の1つでした。
向井さん:2年前、私の夫が町内会長だった年はちょうどコロナ禍で活動が少なかったのですが、やはり実務は妻である私が担っていました。このやり方に疑問を持ちつつ、そのまま引き継いでしまったことが心残りだったので、大関さんたちの改革に協力することにしました。
他のまちのことを知ると、自分たちのまちのことに気付ける
向井さん:改革が始まった令和5(2023)年の8月、偶然ゼスト御池で開催されていた地蔵盆体験会に行ったときに、自治会や町内会を運営する時の悩み事について工夫事例を紹介している『京都の自治会・町内会 困ったときのヒント集』を見つけました。「困っているのは私たちだけじゃないんだ」と、とても勇気づけられると同時に、様々な事例を知ることで自分たちの地域のことを客観的に捉えることができました。
大関さん:他の町内会の話をもっと聞いてみたいと思ったので、令和5(2023)年12月に『町内会サミット2023』を企画しました。町内会の改革事例や行政の支援策などを学んだ後、参加者同士で意見交換を行ったのですが、「引っ越してきて町内会があったので、地蔵盆のことがわかった」、「昔は商売人が地域を支えてきたけど、これからは難しい」、「マンションは子どもが多いけど、あいさつできる機会が少ない」といったそれぞれの地域の話を聞き合うことで、改めて自分の町内会の特徴も知ることができました。また、自分たちのやり方が時代に合っていないことにも気付かせてもらい、改革の後押しになりましたし、町内での説明の説得力になりました。
向井さん:結局、自分たちの地域のことは自分たちで考えないといけないんですね。「町内会って誰のためにあるの?」と意義を見失いそうになりましたが、町内会がなくなって地域のつながりが薄くなると、ご近所での安心感がなくなり、最終的に困るのは自分たち。他の地域の事例を参考にしながら、時代に合ったコミュニティづくりを考えることが大事なんだと気付きました。
時代と実態に合った町内会活動へ
大関さん:1年間で改革したことはいろいろあります。まず、町内の回覧物は、LINEオープンチャットでも共有するようにしました。また、これまで会長、副会長、会計の3役は選挙で決め、任期満了後10年間を免除としていましたが、毎年輪番で決まる5人の班長の中から選ぶことにしました。同時に、各班は世帯数にばらつきがないよう再編し、公平に班長を選出できるようにしました。最も負担となっていた3役の仕事は、細分化して一覧表にまとめたうえで、各委員で分担するなど整理しました。例えば、町内会長は自主防災委員を兼ねていましたが、責任が大きすぎるため、別途防災部長と副部長を設け2人体制にしました。また、行事の負担が大きい神社係も町内会長が兼ねていましたが、お祭りに関わりのある方が「その役ならやっても良いですよ」と言ってくださったのでお願いしました。他にも、会計の仕事の1つだったお地蔵さんのお花係は、年配の女性が「それなら私が」と申し出てくださいました。これらは、『町内会サミット』で知った「ちょこサポ」(※)の仕組みを参考に、役員以外の方のお手伝いを募集した結果でもあり、「やらされる」ではなく「私はこれができる」の感覚で些細なことでも担い合える関係が少しずつできていると思います。
向井さん:もし改革に取り組んでいなかったらどうなっただろう、と考えると、もっと町内がギスギスしていたんじゃないかと思います。町内会の意義を見失いそうにもなりましたが、その時に、自分たちで率直な意見を出し合い、大関さんを中心に改革に取り組む姿を間近で見て、感謝の気持ちと同時に「町内で助け合おう」という雰囲気が徐々にできてきたのだと思います。中には「それでも役を担うのは難しい」という声もありますが、これから高齢世帯もどんどん増えていく中で他人ごとではありません。お互い気持ちよい関係で暮らし続けられるよう、押し付け合うのではなく、身近なことで協力し合える町内会でありたいと思います。
(※)自治会活動ちょこっとサポート隊『ちょこサポ』 | 自治会・町内会 NPOおうえんポータルサイト (kyoto.lg.jp)
【中京区、加入約60世帯】
取材:令和6(2024)年5月28日
- 取材後記
「町内会って必要なの?」という究極の問題に向き合われたからこそ、様々な町内会の事例から学びながら自分たちの町内会の意義を見出し、存続するための改革に取り組まれた事例。変えることそのものにも多大な労力がかかる中、その後押しとなったのは、外部からの客観的な意見と、町内での日常的なつながりであった。